めも。

ごーばっくきゃんでぃはうす

下弦の月/EGO-WRAPPIN'

 

f:id:antiDOGGY:20210919212759j:image

 

父と妹にわたしの新居の買い出しを手伝ってもらったあと、食事をした。

 

前日の金曜日。初めて新居に1人で泊まってみたけど、新しいことがたくさん待ち受けていて刺激的だった。

昼間はガス開通にガス会社の業者さんが来て、立ち会った。書類を書いていて印鑑の朱肉がないことに気づき、おろしたての折り畳み自転車でドキドキしながら、近所のスーパーや百均、ドラッグストアに買い物に出掛けた。

 

10年振りの自転車の運転はサドルの位置やハンドルの高さがまだ定まらないのもあり、おまけにハンドルの重さも変えられるタイプの代物だったものだから、四苦八苦しておぼつかなく、側から見たらとても危なっかしく映っていたと思う。

 

スーパーで、なぜか飲み物をひと通り揃えることに必死になった。

インスタントコーヒー、ペパーミントの紅茶、ロイヤルミルクティーの素、緑茶のテトラパックに、1Lの牛乳、野菜ジュースというラインナップ。チャイ・ティーがあったら最高だったな、とカゴいっぱいの、飲み物になるべくして待機し固唾を飲み見守っているそれらを、視界の端で捉えながらわたしは更に、ミルクポーションを一袋、そのカゴに放り込んだ。

 

包丁とまな板や鍋に加え、お皿やお箸、フォークやスプーンもまだない新居で料理をするという選択肢は今日のわたしには皆無だった。お惣菜コーナーをうろつき、唐揚げと牛肉と玉ねぎの炒め物のお弁当を選ぶ。

 

百均では大きめのボウル皿と、狭い我が家は空間利用だと自分に言い聞かせ、壁にかけられるポケットが6つついたウォールポケット、洗えるスリッパや小さめの灰皿を買う。

薬局でシャンプーリンス、洗顔料にルームスプレー、入浴剤も買ってみた。

 

パツパツのエコバッグを提げ、帰り道また自転車に乗らなくてはならないのだと思うととても憂鬱になった。新品とはいえ、練習もせずに運転に臨んだ自分の浮き足立ち、行き過ぎた考えとヒラメキを呪う。

 

道中は片道自転車にて5分程だ。

とはいえ冷や汗を掻き、途中対面から突如としておわす歩行者にビクビクし、車輪を漕いで動かすことを諦め、愛車を手で押し、歩いたりしてなんとか我が家に辿り着く。

 

まだ慣れない2箇所に鍵穴の付いたドアをガチャガチャと試行錯誤し開けると、安堵からか眠気が襲ってきた。

 

友達から短い文章で連絡が幾つか、ちょうど家を出た時刻に入ってきていて慌てて返信する。夜、電話をする約束をしていたので、冷蔵庫やキッチンの棚に飲み物たちを片付け、野菜ジュースの紙パックを開けてプラスチックのコップに注ぎ、ひと息つく。

すぐさま彼女との電話は繋がり、2時間半、近況やいつものピロートークとも云える修学旅行1日目の夜に交わされそうな会話たちで時間を食べるように過ごした。

 

そんな彼女が居てくれて助かった場面は幾つもあり、戦友のようなイメージでもってもうそろそろ、20年程の付き合いになるとおもうから、今日もわたしを気にかけて電話をくれ、貴重な時間をくれたことに感謝だ。

 

電話を切り、お腹が空いて唐揚げ焼肉弁当を試しにレンジで温めてみる。恐る恐る、お弁当に書かれている500W 1分30秒の文字通り1分半にレバーを合わせた。

途端、レンジは暖かみのあるオレンジ色に灯りを灯し、グルグルと。皿に焼肉弁当を乗せ回りはじめた。わたしは気が気でない。なぜなら母と住んでいる母宅には母の意向によって、電子レンジがないからだ。

久しぶりの感覚。グルグル回る焼肉弁当が、そのうち爆発するんじゃないかというよからぬ事態を想定し、わたしは電子レンジから、顎を引くようにして逃げる。

もしも爆発があった時分に自分を守れない、と振り返り、電子レンジから大きく後ずさりしてみたりした。

 

お湯を注いだカップラーメンが出来上がるより早く、お弁当は温まり、レンジはチン!という軽快な音を立てた。

まだテーブルがないので母宅から持ってきた踏み台の小さな椅子をテーブル代わりにして、食事をする。

美味しかった。満たされた。

温かいご飯は正義だ。

 

食後の眠気にやられて何度も目をしばたきながら、42℃の表示をデジタルで告げるガスのスイッチをピッと入れる。

薬局で買った入浴剤をわたしはとても楽しみにしていた。バスクリンでライム系の香りがするらしい。

あっという間に、湯船のお湯は3分の2の量まで溜まった。ミドリ色のサラサラしたたくさんの粒状の入浴剤を封を切った小さいビニール袋から落とし入れ、湯船は透明なグリーン色に染まる、眠たくなるような暖かい柑橘系の香りで浴槽内を充す。

 

入浴。

風呂場に椅子が無いことに気付き、今後の調達事項の参考に脳内メモ。

買ってきた小さいトラベル用ボトルのシャンプーを泡立てて髪を洗い、コンディショナーも使う。肌あたり硬めのお身洗いにボディソープを含ませ身体もゴシゴシと洗う。洗顔料を泡立てたら、顔に乗せ少し停止。そのまま歯磨きに移る。

...シャンプーを流したあたりから、わたしは重大な事態に気付いてしまう。

洗い場からトイレへと通じるドアーの扉と床に隙間が、空間があるように感じたんだ。

 

洗い場から溢れ出たお湯が、たぷんたぷんと波打ち、その隙間を飲み込んでいくような感覚を覚える。わたしは咄嗟にシャワーヘッドを湯船の方へ向ける。まだバスマットもトイレマットも設置されていないあのスペースに、浸水するなんて後片付けが大変な事は目に見えた事態だった。

髪や体を洗っている最中、出来るだけスペースに水が浸水しないよう努め、結果、シャワーヘッドは常に湯船に向かってお湯を放ち続けた。

ーそれがよくなかった。

 

入浴剤を入れた薄グリーン色の湯船は浴槽いっぱいにお湯で溢れていた。

右足から投入。

当然、お湯は湯船から溢れ出てしまい、あのスペースへ。たぷんと小さな波を起こして押し寄せた。青ざめる。

本末転倒。

腰をゆっくり、少しずつ、慎重に下ろして浴槽に浸かる。スクワットでもしているようなキツい体制で、注意を払う関係から神経までもが研ぎ澄まされる。

 

わたしの住んでいる母宅ではシャワーが常。湯船はあれど浸かることはほとんどなく、久しぶり過ぎる楽しみにしていた入浴だったのだが、わたしのおつむ不足により惨事、事故ってしまった。

 

結局、なんとか入浴は出来た。

温泉や銭湯に行った後の感覚に似て体がぽかぽかした。春が来たみたいだ、と思った。

 

0時前に眠気は訪れ、頭を殴られたようにバタンキューで寝入る。明日は父と妹が部屋を見に来てくれる。買い出しも手伝ってくれるという。

ここのところ契約や手続きなどで休みの日は早起きしていて、24h寝るなんてことがなく、なんとなくそれが懐かしくなってきていたところだった。

第一章、ロングスリーパーの旅立ち。

 

妹に生活の知恵を貸りよう。とぼんやり思ううち、わたしは眠りに落ちた。